中学生の頃、家の近くに大きな川があって、その川の支流によく自転車で山道を走り釣りに行っていた。杉林の斜面に囲まれたその川にはヤマメがいて、その頃の僕は、見よう見まねで始めたテンカラ釣りをしていた。ある日、その川の流れの中に、悠然と泳ぐ大きなヤマメをみつけたことがあった。澄んだ水の中をゆらゆらと泳ぐパーマークも鮮やかなヤマメに、僕はどきどきしながら毛針を何度も流した。でも最後まで何もおこらず、ヤマメは流れの深みへと消えていってしまった。その後もその川には何度も通ったけれど、あの大きなヤマメを見ることはできなかった。
あれからずいぶん月日が経って僕はすっかり歳をとったけれど、あの日のあのヤマメの姿はいまでも鮮明に心に焼きついている。でもこんなことをおもっているわりに、ここ何年もヤマメ釣りはしていない。なんでだろうなぁ。